花紅柳緑~院長のBLOG

座右の銘「医事は自然に如かず」

無常の心を

題知らず末の露もとの雫や世の中の 後れ先立つためしなるらん 新古今和歌集・巻第八 哀傷歌/ 和漢朗詠集・巻下 無常 僧正遍昭

春ふかみ待合室は花ざかり 令和八年の桜花・其の一

季節の新しい花材を入手した時は医院待合室に小品を生ける。水が零れない様に盛花は控えて投入れが主体となり、花材は穏やかな色合いを選び、強い香りを放つ花は避ける。それぞれ二・三日の展示期間、華展と同じく花材や器の水を毎日点検、更新する。待合室…

古都奈良に春来る 糊こぼしの花

銘菓「糊こぼし」 奈良・萬々堂通則華厳宗大本山、東大寺の二月堂で行われるお水取り(修二会)は、本年3月1日から本日14日まで行われ、古都奈良に春を告げる伝統行事である。東大寺の創建に尽力された良弁僧正をお祀りする開山堂に咲く名椿「良弁椿」は、紅…

「花形歌舞伎特別公演 曽根崎心中物語」 南座で歌舞伎

「花形歌舞伎特別公演 曽根崎心中物語」が京都南座で始まった。中村鴈治郎(敬称略、以下同文)が物語として新たに監修なさり、中村壱太郎、尾上右近の花形俳優が、役替わりで天満屋はつと平野屋徳兵衛を演じるダブルキャストである。当時の心中事件をもとに…

小金井 春の夜は桜にあけてしまひけり はせを│日本花図絵

小金井 春の夜は桜尓あけて志まひけり 者せ於│尾形月耕「日本花圖繪」明治廿九金井橋(こがねゐばし) 多摩川の上水堀両岸の芝堤にあり。金井村(こがねゐむら)に架す。故に名とす。この地の桜花(さくら)は享保年間、群官川崎某(それがし)台命を奉じ、…

小桜威 勇士の月│日本花図絵

小桜威 勇士月│尾形月耕「日本花圖繪」明治廿九年小桜文様を施した威毛の鎧の武士が横笛を奏でる。萩の花が咲きこぼれる静夜、月が高く澄み上がった空には一片の雲もない。隈なく照らす月影の下、勇士の佇まいは常の心のまま従容として揺るぎなく、奏でる笛…

紫宸殿の桜 重盛 義平│日本花図絵

紫宸殿の桜 重盛 義平│尾形月耕「日本花圖繪」明治丗年(悪源太、源義平)の給ひけるは、「端武者共に目なかけそ、罪作りに。大将軍重盛計に目を懸よ。はしの匂の鎧に、蝶の丸すそ金物、黄鴾毛の馬の乗ぬしこそ大将軍よ。押ならべてくんでおち、てどりにせよ…

水際の桜 お玉が池故事│日本花図絵

水際の桜 お玉可池故事│尾形月耕「日本花圖繪」明治廿八年於玉が池 旧名を桜が池と云ふ。今神田松枝町人家の後園に、於玉稲荷と称する小祠あり。里諺に云ふ、於玉が霊を鎮ると。その傍に少しく井の如き形残れり。昔の池の余波なりといへり。里老伝へ云ふ。昔…

桜花問答 稲宣義 唐使│日本花図絵

櫻花問答 稲宣義 唐使│尾形月耕「日本花圖繪」明治丗年 正徳辛卯、韓使来聘時に宣義、彼の学士と客館に於て語りて筆す。書記等は物産を質問す。宣義曰く、「此樹我が土では櫻花と名づく。樹の高さ二三丈、葉は垂絲海棠と一様なれど、惟だ枝条柔軟ならざるを…

令和八年の萬年青を生ける 投入

投入花の花入:師範許状取得の翌年、流派の新年会での初生けに用いた青竹を晒した寸胴花入、華道大和未生流第3代家元に賜った御銘「一滴の奏で」(ひとしずくのかなで)。 霞を詠むうぐいすの春になるらし 春日山霞たなびく夜目にみれども 万葉集・巻第十 春…

令和八年の萬年青を生ける 盛花

盛花の花入:華道大和未生流当代家元が御監修の信楽焼花入、小判型水盤。 霞を詠む冬過ぎて春来るらし 朝日さす春日の山に霞たなびく 万葉集・巻第十 春雑歌 詠み人知らず

謹賀新年│令和八年丙午

新年明けましておめでとうございます。皆々様の御健康と御多幸をお祈り申し上げます。何卒本年も宜しくお願い申し上げます。 百首歌たてまつりける時、子日の心をよめるときはなる松も春を知りぬらん はつねをいはふ人にひかれて 千載和歌集・巻第一 春歌上 …

令和七年大晦日の御挨拶

本年一年に賜りました御厚情に心より感謝申し上げます。来年も何卒宜しくお願い申し上げます。寒風の候、どうぞくれぐれも御自愛下さい。 入道前関白太政大臣、百首歌よませ侍りける時 年の暮の心をよみて遣はしける石ばしる初瀬の川の波枕 はやくも年の暮れ…

想い出の花 明六つの鐘を聞く│花信

摂政太政大臣、大将に侍りし時 月歌五十首よませ侍りけるに有明の月のゆくへをながめてぞ野寺の鐘は聞くべかりける 新古今和歌集・巻十六 雑歌上 慈円

當る午歳「吉例顔見世興行」の京都南座へ

京都南座にまねき看板が上がり「吉例顔見世興行」が開幕した。師走の吉日、観劇の機会を得た昼の部の演目は、第一「醍醐の花見」、第二「一條大蔵譚」、第三「玉兔」、「鷺娘」、大喜利は第四「平家女護島」である。八代目尾上菊五郎丈江、六代目尾上菊之助…

冬至に頂いた花を生ける 行く年の惜しくもあるかな

千五百番歌合に草も木も降りまがへたる雪もよに 春待つ花の梅の香ぞする 新古今和歌集・巻第六 冬歌 右衛門督通具

会者定離の定めにおもう

柴犬まるが旅立ってから早二週間が過ぎた。医院開業の年に拙宅の一員となった愛犬で、いわば糟糠の犬である。彼が残したフード、ペットシートやおむつ類は、動物愛護に携わっておられる団体組織にお納め申し上げ、関係諸兄諸姉の御手を経てお仲間の為に役立…

柴犬まるが教えてくれたこと  

〇ペットロスの患者さん 漢方診療の腹診を行っている時、入室時から浮かぬ顔をなさっている理由をぽつりぽつりと患者さんが語り始めた。16歳の愛犬を2週間前に見送ったとの事である。あの時こうした、こうもしてやりたかったと、小声で話し続ける患者さんの…

楓橋夜泊に思いをはせて│花信

楓橋夜泊 張継月落烏啼霜滿天 月落ち烏啼いて 霜 天に滿つ江楓漁火對愁眠 江楓漁火 愁眠に對す姑蘇城外寒山寺 姑蘇城外 寒山寺夜半鐘聲到客船 夜半の鐘聲 客船に到る唐詩選巻七・七言絶句│目加田誠著:新釈漢文大系19「唐詩選」,p751-752, 明治書院, 1985 春…

菊三昧 秋菊佳色あり│頂いたお花を生ける

飲酒 其七 陶淵明秋菊有佳色 秋菊 佳色あり裛露掇其英 露に裛(ぬ)れたる其の英を掇(つ)み汎此忘憂物 此の忘憂の物に汎かべて遠我遺世情 我が世を遺るるの情を遠くす一觴雖獨進 一觴 独り進むと雖も杯盡壺自傾 杯 尽き 壺も自ずから傾く日入群動息 日入り…

霜葉は二月の花より│秋分の花信

路上雑詩 江馬細香㵎水潺潺霜葉紅 㵎水 潺潺(せんせん)として 霜葉紅なり高低路入乱山中 高低 路は入る 乱山の中斜陽一片行人少 斜陽 一片 行人少なり木末蹣跚是我僮 木末に蹣跚(まんさん)たるは 是れ我が僮江馬細香│福島理子注:江戸漢詩選 第三巻「女…

玉の輿と逆玉の道 格差を乗り越えて

女性が乗る“玉の輿”、また近年は男性が乗る“逆玉”という言葉がある。明治時代、江戸の商家に生を受け、オーストリア・ハンガリー帝国の大貴族に嫁いだ旧姓青山、クーデンホーフ光子伯爵夫人は、渡欧後、子供たちとともに多岐にわたる学問、語学や礼儀習慣を…

紫の秋・其十一│花信

虫の音にかれゆく野辺の草むらに あはれを添へて澄める月影 山家集・上 秋 西行 叢邊に怨み遠くして風の聞き暗し 壁の底に吟幽かにして月の色寒し 叢邊怨遠風聞暗 壁底吟幽月色寒 和漢朗詠集・巻上 秋│虫 源順

紫の秋・其十│花信

うらみわびたちあかしたるさをしかの もゆるまなこにあきのかぜふく 自註鹿鳴集 南京新唱 会津八一

医師人生の原点に還る 話題の映画「国宝」に触発されて

鮭は大海原に下り成長した後に、再び生まれた河川の源流を遡上する。親を知らぬまま生を受けた渓流の景色を、再び彼等は眼にすることが出来ただろうか。人も亦、時経ておのれが拠って立つ所を貫き流れる流路を遡る時が来る。その流れは継承する血流そのもの…

有吉佐和子著『出雲の阿国』 人々を慰藉する生業とは

有吉佐和子著『出雲の阿国』(中央公論社、1969)の主人公、出雲の阿国は、安土桃山から江戸時代にかけて活躍した、現代歌舞伎の起原とされるかぶき踊りを創始した芸能者である。鑪(たたら)の大旦那、田部庄兵衛のお土居屋敷の邸内を埋め尽くした鑪衆を前…

話題の映画「国宝」の世界・其二 小野川万菊がみせた終焉の華

映画『国宝』で世界的な舞踊家、田中泯(敬称略)が演じる人間国宝の歌舞伎役者、六代目小野川万菊が、自ら終の棲家に選んだのは場末の安旅館である。原作を紐解けば、歌舞伎界の重鎮であった万菊を知る由もない同宿人達の脳裏に色濃く刻まれたのは、すべて…

話題の映画「国宝」の世界 美を極めるとは

話題沸騰の映画『国宝』(監督:李相日監督、原作:吉田修一著『国宝』、歌舞伎指導・出演:四代目中村鴈治郎、敬称略・以下同文)は、任侠一門を出自とする立花喜久雄が上方歌舞伎名門の部屋子となり芸道に精進し、紆余曲折を経て希代の女形役者を極めて人…

杜若(かきつばた)・其十八│頂いたお花を生ける

杜若われに発句の思ひあり 俳諧千鳥掛 芭蕉

初蝉を待つ│頂いたお花を生ける

閑さや岩にしみ入る蝉の声 おくのほそ道 芭蕉